『サイレントヒル2』をプレイした多くの人の脳裏に、そのおぞましい姿が焼き付いているクリーチャー「アブストラクトダディ」。
このクリーチャーは一体何者で、何を象徴しているのでしょうか。
結論として、アブストラクトダディの正体は、登場人物の一人であるアンジェラ・オラスコが過去に受けた性的虐待のトラウマが具現化した存在です。
この記事では、サイレントヒルを代表するトラウマクリーチャー、アブストラクトダディの正体、名前の由来、そしてオリジナル版とリメイク版での描かれ方の違いについて、深く考察していきます。
アブストラクトダディとは?『サイレントヒル2』を象徴するクリーチャー
アブストラクトダディは、ホラーゲーム『サイレントヒル2』に登場するクリーチャーの一種ですね。
主人公ジェイイムスが迷宮エリアでアンジェラ・オラスコと遭遇した際、彼女に迫る中ボスとして初めて姿を現します。
ベッドフレームのような四角い板の上に、二つの人型の肉塊が重なり合ったような異様な姿をしており、一度見たら忘れられない強烈なインパクトを持っています。
オリジナル版では、この迷宮での戦闘後、物語終盤に訪れるホテルで弱体化した個体が複数体登場し、プレイヤーに再び恐怖を与えました。
その不気味なデザインと背景にあるストーリー性から、『サイレントヒル2』のテーマである「内面の罪と罰」を色濃く反映した、シリーズを象徴するクリーチャーとして知られています。
アブストラクトダディの正体:アンジェラの壮絶な過去の象徴
アブストラクトダディの核心に迫る上で最も重要なのは、その正体がアンジェラ・オラスコの壮絶な過去と深く結びついているという点です。
このクリーチャーは、彼女が実の父親と兄から長年にわたり受けてきた性的虐待の記憶と苦痛が、サイレントヒルの力によって形を得たものなのです。
ベッドの上で絡み合う二つの肉塊
アブストラクトダディのデザインは、性的暴行の瞬間を極めて抽象的に、しかし生々しく表現している感じですね。
四角いフレームはベッドを、その上に重なる二つの肉塊は「うつ伏せになったアンジェラと、彼女に覆いかぶさる父親」の姿を暗示していると考察されています。
この姿は、彼女が逃れることのできなかったおぞましい記憶そのものかなと思っています。
ジェイムズの視点を通して「抽象化」された姿
プレイヤーがゲーム内で目にするアブストラクトダディの姿は、あくまで主人公ジェイムズの視点を通して「抽象化」されたものです。
クリーチャーデザイナーの伊藤暢達氏は、アンジェラ本人の目には、ジェイムズが見ているものよりもさらに恐ろしく、直接的な姿で見えているだろうと示唆しています。
また、ベッドフレームのような形状には、病気で寝たきりだったジェイムスの妻、メアリーの記憶も影響しているとされ、他者のトラウマがジェイムス自身の罪悪感と交錯して見えている複雑な状況がうかがえます。
ボス戦エリアが暗示するもの
アブストラクトダディと戦うことになる部屋の演出も、アンジェラのトラウマを補強しています。
オリジナル版では、壁に空いた無数の穴の中で棒のようなものがピストン運動を繰り返すという、極めて直接的な性行為のメタファーが描かれていました。
リメイク版ではこの演出がさらに強化され、戦闘が進むにつれてアンジェラの「家庭」が崩壊していく様子が描かれます。
父親の罵声が響き渡り、壁が剥がれ落ちてピストン状の機械が覗くなど、彼女が経験した地獄のような日常が、より鮮明な悪夢としてプレイヤーの前に現れる感じですね。
名前の由来:「Doorman」から「Abstract Daddy」へ
アブストラクトダディという名前には、実は少し複雑な経緯があります。
一部の古い情報では「Doorman」と呼ばれていたこともあり、プレイヤーの間で混乱を生んだ時期がありました。
一部の攻略本では「Doorman」と呼ばれていた
2001年の発売当初、アメリカで発売された公式攻略本(BradyGames社製)では、このクリーチャーは「Doorman Boss」と記載されていました。
とはいえ、この攻略本は誤情報が多いことでも知られており、開発者が提供したプレリリース情報を基に外部のライターが仮称を付けた可能性が高いと考えられています。
なぜ「Doorman(ドアマン)」だったのかは不明ですが、誤訳や、プロットのネタバレを防ぐためのコードネームだったのかもしれないですね。
デザイナーが込めた本来の名前「Abstract Daddy」
クリーチャーデザイナーの伊藤暢達氏によって付けられた正式名称は「Abstract Daddy」です。
イギリス版や日本版の公式ガイドブックでは正しくこの名前が使われており、これが本来意図された名前であることが分かります。
「Abstract(抽象的な)」という単語が示す通り、このクリーチャーはアンジェラのトラウマを直接的ではなく、抽象的な形で具現化した存在なのです。
「理想の父」という皮肉な別名
日本語では「理想の父(Ideal Father)」という別名で呼ばれることもあります。
これは、「アブストラクト」という単語に「理想」という意味合いが含まれるという解釈から来ており、彼女の境遇を考えるとこれ以上ないほど皮肉なネーミングと言えるでしょう。
父親から最もかけ離れた「理想」の姿が、あの醜悪なクリーチャーであったという事実は、アンジェラの絶望の深さを物語っています。
オリジナル版とリメイク版での違い
20年以上を経て発売されたリメイク版では、アブストラクトダディの描かれ方にいくつかの重要な変更点がありました。
これらの変更は、このクリーチャーの本質をより深くプレイヤーに伝える効果をもたらしています。
ホテルでの再登場がなくなったリメイク版
オリジナル版の『サイレントヒル2』では、迷宮でボスとして倒した後、レイクビューホテルで通常の敵として複数体のアブストラクトダディが再登場しました。
しかし、リメイク版ではこのホテルでの再登場がなくなり、迷宮でのボス戦のみの登場となっています。
この変更により、アブストラクトダディがジェイムスの内面ではなく、徹頭徹尾「アンジェラ・オラスコに紐づく存在」であることが強調された感じですね。
演出の強化でより鮮明になったトラウマ
前述のとおり、リメイク版におけるボス戦の演出は大幅に強化されています。
戦闘の舞台はアンジェラの子供時代の家を歪ませたような閉塞的な空間となり、アブストラクトダディが壁を破壊しながら迫ってくる様は、まさに家庭を破壊する者(ホームレッカー)そのものです。
唯一の安全地帯が、彼女がぬいぐるみを抱いて隠れていた小さなクローゼットであるという演出は、多くのプレイヤーの胸を締め付けました。
グラフィックの向上も相まって、その不快感と恐怖はオリジナル版を凌駕すると言っても過言ではなく、アンジェラの体験した苦しみを追体験させる強烈なシークエンスに仕上がっています。
まとめ:アブストラクトダディはアンジェラの心の闇の象徴
今回は、『サイレントヒル2』に登場するクリーチャー、アブストラクトダディについて考察しました。
大切なので、要点をまとめます。
- アブストラクトダディの正体は、アンジェラ・オラスコが父親と兄から受けた性的虐待のトラウマが具現化したもの。
- そのデザインは、ベッドの上での性的暴行を抽象的に表現している。
- 「Doorman」という名前は一部の攻略本での誤記・仮称であり、正式名称は「Abstract Daddy」。
- リメイク版ではホテルでの再登場がなくなり、ボス戦の演出が強化されたことで、アンジェラとの関連性がより明確になった。
こんな感じです。
アブストラクトダディは、単なる恐ろしい敵キャラクターではありません。
それは、一人の人間の魂が受けた癒えることのない傷の象徴であり、『サイレントヒル2』という作品が持つ、人間の心の闇を描く奥深さを体現した存在なのかなと思います。

コメント